石川幹人ゼミナール「夢」グループ

明治大学情報コミュニケーション学部 2015年度 石川幹人ゼミナール 「夢」グループです。

6.まとめ

Twitterによる報告は、任意的であり、年齢もバラバラで統一性がなく、あくまでも参考にしか過ぎないのだが、それでも今回の結果から、ネガティブな出来事が夢に与える影響は非常に大きいものであると考えられる。個人的な見解として夢の存在意義は、フロイトの「願望充足説」やアラン・ホブソンの「不必要なノイズ」、レヴォンスオの「シュミレーション説」が近いのではないだろうかと考えている。今回の分析では、テロや誘拐、大震災というなかなか回避できない事件や自然現象に対して、多くの人々が「逆補償夢」によって睡眠中に、頭の中で冷静に現状を整理したり、次に人災や天災が起きた時の予習を行っていたのではないだろうか。

夢という領域は、まだまだ未知な部分が多い。人が夢に抱く疑問は古くから存在していたが、そもそも心理学自体が研究され始めたのは日が浅く(神の存在と相まって心は科学の対象外とされていた)、19世紀のジークムント・フロイトから始まる。彼は「夢の意味は願望の充足であり、夢の機能は満たされない願望(反社会的)を幻覚的に充足することで睡眠を保証する」と解明した。しかし、当時の時代背景から抑圧された性的欲求(反社会的)に注目し過ぎていたのと、夢そのものよりも深層心理を読み解くためのきっかけとして夢を判断しており、現在では批判の声が多い。

そして、フロイトの考えを否定し、「夢とは随伴現象で、レム睡眠の機関に評するある程度の無秩序な雑音である」と評したのが、アラン・ホブソンである。睡眠を認知科学から分析し、フロイトの「願望充足説」を完全否定した。彼の「夢は全く意味のないモノ」という考え方にあまり納得ができなかったが、疲れた脳を休めたり、記憶したデータを整理するという脳のメンテナス的役割を果たすという生理心理学の観念は素晴らしいと思う。

夢の役割について様々な見解があるが、中でも私は「進化心理学の側面から考えると夢は、脅威を避ける適切な技術と行動のプログラムを睡眠中に予行演習する驚異的な状況をシュミレーションしている(生存率が上がる)」というレヴォンスオの考え方に、最も共感している。夢は精神の働きの一種であり、精神の働きがあるからこそ人は、他の動物よりも環境に適応し、ここまでの文明を作り上げてきた。夢の存在は、眠っている間にその日の危険な出来事を反省したり、これから行うことを予習するためにあるのではないだろうか。

他にも、夢は一瞬にして形成されるものだとする「瞬間生起説」(ベッドから落ちる時にリンクするように夢は一瞬で生まれる)や警告夢など、夢に関する見解は数多く存在している。

 

例えば、飛行の夢は・・・

フロイト:「性的願望の象徴的実現」

ホブソン:「ランダムな刺激を何とかして辻褄合わせした結果」

レヴォンスオ:「驚異的状況から脱出するための現実的リハーサル」

 

夢に関する本はその需要の多さから、自己啓発系から恋愛本まで様々な形で出回っている。そこで最後に、夢研究に興味を持った方のために、夢研究のカテゴリーについて紹介しようと思う。

夢研究の四本柱は「夢の現象学」「フロイトユングの夢の深層心理学」「レム睡眠の発見に始まる夢の認知科学」「ホールらの夢の統計学的研究」とされている。しかし、現象学フッサールらの難しい哲学領域であるし、認知科学はジュヴェが発見したレム睡眠とノンレム睡眠の周波数期といった理系なモノで実験になじみのない人には取っ付き難い領域である。そのため、初心者の方は、フロイトユングの深層心理学やホールの統計学的研究から入るのをお勧めする。

私自身、夢に関してそれなりに学ぶことが出来たが、夢研究は日が浅く、納得した部分もあれば疑問に思う部分もあった。夢研究は、発展途上であり、新たな発見も今後生まれるであろうと思うので、これからも夢研究について注目していきたい。

 

参考資料:アラン・ホブソン『夢の科学』講談社.2003

     渡邊恒夫『人はなぜ夢を見るのか』化学同人.2010

               松田英子『夢と睡眠の心理学』風間書房.2010

     北浜邦夫『ヒトはなぜ、夢を見るのか』文集新書.2000